Omdiaによると、2026年第2四半期の世界のワイヤレスイヤホン出荷台数は8,210万台で、前年同期比0.7%減少しました。2023年第2四半期以来、四半期ベースでは初めて前年を下回っています。
その中で、耳の穴をふさがないタイプ(業界ではOWSと呼ばれます)は12%増の1,110万台となりました。ワイヤレスイヤホン全体に占める割合も、前年の12.0%から13.5%に上がっています。
数字だけを見ると、イヤホン市場全体が大きく伸びているわけではありません。その一方で、OWSは市場全体とは違う動きをしています。
このOWSの中でも、製品の形によって出荷の伸びにはかなり差があります。
OWSのなかでイヤークリップ型が急速に増加
耳の穴をふさがないイヤホンは、大きく分けると3つのタイプがあります。
耳たぶを挟むイヤークリップ型、耳に引っかけるイヤーフック型、首にかけるネックバンド型です。
IDCの調査によると、2026年第2四半期の出荷台数は、イヤークリップ型が前年同期比82.2%増。これに対してイヤーフック型は5.1%減、ネックバンド型は0.9%増でした。
Omdiaの集計では、OWSの出荷台数の61%がイヤークリップ型、39%がイヤーフック型です。
以前のOWS市場では、スポーツ用途を意識したイヤーフック型が目立っていました。それが現在は、イヤークリップ型の比重が大きくなっています。
両者の違いは、使い方にもあります。
イヤーフック型は、走ったり運動したりするときに外れにくいことが大きなメリットです。スポーツとの相性がよく、用途が比較的はっきりしています。
一方のイヤークリップ型は、耳たぶに挟むだけなので、外出中だけでなく仕事中や家の中でも使いやすい。デザインもアクセサリーに近い製品が多く、スポーツ専用という印象が薄くなっています。
「運動するときに使うイヤホン」だけではなく、普段から身につけておくイヤホンとして選ばれるようになってきたことが、両者の差につながっている可能性があります。
高価格帯と低価格帯の両方で製品が増えている
価格帯を見ると、もう一つ面白い動きがあります。
Omdiaによると、2026年第2四半期のOWS出荷台数は、100〜199ドルの価格帯で前年同期比253%増、50ドル未満では323%増となりました。
高価格帯だけが伸びているわけでも、低価格帯だけが増えているわけでもなく、両方の価格帯ともに増加しています。
上位価格帯では、米国ブランドの参入も目立ってきました。
Boseは2025年5月、BLACKPINKのLISAとの限定モデルを399ドルで発売。2026年9月には、199ドルのスポーツ向けモデルと299ドルの上位モデルを発表しました。
Shokzも2026年1月に北米で上位モデルを投入しています。
これまでのように、一部のスポーツユーザーが使う製品という位置づけでは説明しにくくなっています。
一方、50ドル未満の市場では中国メーカーを中心に製品の数が増えています。
高価格帯では機能や音質を競い、低価格帯では手頃な価格で購入できる製品が増える。OWSは現在、この両方向から市場が広がっています。
Appleが上位に入っていない
もう一つ気になるのは、ブランドの顔ぶれです。
ワイヤレスイヤホン全体では、AppleがBeatsを含めて出荷の3分の1近くを占めています。
ところが、OWSに絞ると事情が違います。
Smart Analytics Globalの2026年第1四半期の集計では、イヤーフック型はShokzが25%で首位、イヤークリップ型はHuaweiが22%で首位でした。
Appleは、現在伸びているイヤーフック型とイヤークリップ型のどちらでも、上位ブランドとして名前が出てきません。
Appleのような既存の大手がまだ大きな存在感を持っていないため、現在のOWS市場では、ShokzやHuaweiなど、このカテゴリーに早くから取り組んできたメーカーの存在感が相対的に大きくなっています。
特にイヤークリップ型では、中国メーカーの製品投入が多く、価格の幅も広がっています。
今後Appleなどの大手が本格参入するかどうかは、この市場を見るうえで一つのポイントになりそうです。
日本では自転車利用とも関係
日本市場については、自転車との関係も無視できません。
2026年4月1日から、16歳以上の自転車利用者にも交通反則通告制度、いわゆる「青切符」が適用されるようになりました。
対象となる違反は113種類。この中には、周囲の音が聞こえない状態でイヤホンを使用して運転する行為も含まれ、公安委員会遵守事項違反として5,000円の反則金の対象になります。
これまで耳をふさぐタイプを使っていた人にとっては、自転車に乗るときだけでも、周囲の音が聞こえるイヤホンに変える理由になります。
日本では、自転車に乗りながら音楽やポッドキャストなどを聞くユーザーに対して、OWSを訴求しやすい環境になったと言えます。
ただし、この法改正がOWSの販売にどの程度影響しているのかを示す公開データは、現時点では見当たりません。
日本市場を見る場合には、一つの需要要因として考えておく程度がよさそうです。
これからは「2台目」の需要も考える必要がある
OWSが伸びているからといって、従来型のワイヤレスイヤホンがすぐに置き換わるとは限りません。
むしろ、しばらくは両方を持つ人が増える可能性があります。
電車や飛行機の中、集中して仕事をしたいときには、耳をふさいで周囲の音を遮断するタイプが好まれています。
一方、家事をしながら、散歩をしながら、あるいは在宅勤務中に家族から話しかけられるような場面では、周囲の音が聞こえるほうが使いやすい。
用途が違えば、同じ人が2種類のイヤホンを持っていても不思議ではありません。
この場合、OWSの成長は従来型イヤホンからの買い替えだけではなく、「もう一台買う」という需要によって支えられることになります。
イヤホン市場全体が大きく伸びなくても、こうした買い増しが続けば、OWSにはまだ伸びる余地があります。
「中国メーカーが価格を下げ」、「欧米ブランドが上位市場を広げる」典型的な二極化構造
地域別に見ると、中国の存在感も大きくなっています。
IDCによれば、OWSの世界出荷の6割以上を中国が占めています。
50ドル未満の製品が大きく増えていることを考えても、中国メーカーによる大量の製品投入が、このカテゴリーの普及を支えていると考えられます。
一方、BoseやShokzなどは、より高い価格帯で製品を展開しています。
今後は、低価格帯で製品数を増やす中国メーカーと、高価格帯でブランドや機能を訴求する欧米メーカーとの競争が強まる可能性があります。
その中で、日本メーカーがどの価格帯、どの用途を狙うのかも注目されます。
音質だけではなく、「周囲の音をどう聞かせるか」へ
OWSは、構造上、周囲の音が聞こえます。
そのため、このカテゴリーでは音楽そのものの音質だけでなく、外の音をどう聞かせるかが重要になります。
たとえば、人の声は聞き取りやすくする一方で、風の音は抑える。騒がしい場所では周囲の音を整理して、必要な音だけを聞き取りやすくする。
こうした処理が進めば、イヤホンと補聴器の境目も少しずつ曖昧になっていきます。
Omdiaは、OWSの世界出荷台数が2026年の4,390万台から2030年には9,050万台まで増えると予測しています。ワイヤレスイヤホン全体の中で約5分の1を占める規模です。
ここまで普及すれば、OWSは「耳をふさがないイヤホン」という一つの製品カテゴリーにとどまらず、音を聞くための機器そのものの選択肢の一つとして定着していく可能性があります。
現時点では、まだAppleがこの市場の中心にいるわけではありません。
イヤークリップ型ではHuaweiなど中国メーカーが存在感を持ち、スポーツ向けではShokzが強い。そこにBoseなどの欧米ブランドが加わり、50ドル未満の低価格帯にも多数の製品が出てきています。
ワイヤレスイヤホン市場全体が成熟する中で、OWSは数少ない成長カテゴリーの一つです。
今後見るべきなのは、単純な出荷台数だけではありません。
どの形が残るのか。どの価格帯が中心になるのか。そして、Appleなどの大手がこの市場に本格的に入ってくるのか(ユーザーの期待も含めて)。
この3点を見ると、OWSが一時的な流行なのか、それともイヤホン市場の新しい定番になるのかが、もう少しはっきりしてきそうです。
出典
- Omdia「Global TWS Tracker」2026年第2四半期の集計および予測(同社発表、各報道より)
- IDC「Worldwide Quarterly Wearable Device Tracker」2026年第2四半期
- Smart Analytics Global 2026年第1四半期のワイヤレスイヤホン出荷集計(同社発表、各報道より)
- 警察庁/各自治体公表資料「自転車に対する交通反則通告制度(青切符)の導入」(2026年4月1日施行)