価格の失敗は、あとから直しにくい

2007年6月、アップルは初代iPhoneの8GBモデルを599ドルで発売しました。ところが68日後の9月5日、399ドルへ200ドル引き下げます。発売直後に定価で買った人たちから抗議が殺到し、翌日にはスティーブ・ジョブズが公開書簡を出して謝罪し、100ドル分のストアクレジットを配ることになりました。

値下げそのものは、売上を伸ばすための判断としては正しかったと思います。ただ、初期に買った人にとっては、2か月で2万円以上損をしたという事実だけが残ります。あの一件は、価格を決め直すという行為が、単なる数字の変更では済まないことを示した例でもあります。

値上げはさらに難しくなります。一度示した価格が、その商品の基準として顧客の中に残るためです。だから発売前に、受け入れられる価格帯を確かめておきたい。ここまでは、どの企業でも同じ考えに行き着きます。

受容価格を測る方法は、大きく2種類に分かれる

実務で使われている方法は数多くありますが、聞き方の構造で見ると2つに分かれます。

方法 聞き方 向いている場面
価格感度測定(PSM)
直接たずねる方法
「高すぎて買わない」「安すぎて品質が心配」など4つの価格を答えてもらい、交点から価格帯を求める。 価格の当たりがまったくついていない段階。上限と下限の目安を知りたいとき。
段階的な価格提示(ガボール・グレンジャー法)
直接たずねる方法
複数の価格を順に示し、それぞれで買うかどうかを答えてもらう。価格ごとの購入率が出る。 価格帯が絞れていて、どこで購入率が落ちるかを知りたいとき。
選択型コンジョイント
選択から推定する方法
価格を含む複数の条件が違う商品案を並べ、どれを選ぶか(どれも選ばないか)を繰り返し答えてもらう。 仕様と価格の組み合わせを比べたいとき。競合を含めたシェアの試算をしたいとき。
評価型コンジョイント
選択から推定する方法
条件の組み合わせを1案ずつ見せ、魅力度などを点数で評価してもらう。実装しやすく、回答者の負担も軽い。 仕様の優劣を比べたいとき。ただし価格の水準を出す用途には向かない(後述)。
価格を変えた提示テスト
選択から推定する方法
回答者ごとに1つの価格だけを見せ、購入意向を聞く。価格ごとの結果を比較する。 価格が意向にどう効くかを、比較のゆがみなく見たいとき。

当社がよく使うのは、初期の探索にPSM、仕様と価格の組み合わせを詰める段階でコンジョイントという組み合わせです。実務ではこの2つで足りることが多いのですが、どちらの方法にも共通する弱点があります。実際にお金を払わずに答えているという点です。

調査の前に、参照価格を押さえておく

方法の選択に入る前に、確認しておきたいことがあります。生活者は、まったくの白紙から「この商品はいくらが妥当か」を考えているわけではありません。先に市場に出ている競合品の価格や、置き換えの対象になる類似製品の価格が、判断の基準になっています。

そのため、調査で得られる数字は、回答者が何を思い浮かべたかに左右されます。競合品を見せずに単独で評価してもらった場合と、店頭と同じように並べて見せた場合とでは、結果が変わります。どちらが正しいということではなく、何と比べた結果なのかを設計の段階で決めておく必要がある、ということです。

実務では、調査に入る前に次の整理をしておくと、あとの解釈が楽になります。

この3点が押さえられていれば、調査で出てきた価格が高いのか安いのかを、市場の文脈の中で判断できます。逆にここが曖昧なまま調査をかけると、出てきた数字を評価する基準がなくなります。

聞いた金額は、実際より2割高く出る

この差は「仮想バイアス」と呼ばれ、海外では検証が積み重ねられてきました。オランダの研究者らが2020年にJournal of the Academy of Marketing Scienceで発表したメタ分析は、その全体像を示しています。

この研究は、同じ商品について「聞いた金額」と「実際に払った金額」の両方を測定した47本の論文・77の研究をまとめたものです。対象となった回答は、仮想の測定が24,347件、実際の支払いが20,656件。分析の結果、聞いて得た金額は実際の支払額を平均で21%上回っていました。

2割という数字は、感覚的には「まあそんなものか」と思える幅かもしれません。ただ、これが利益率にそのまま効いてくると考えると、話は変わります。原価率が7割の商品で、想定していた価格が2割下がれば、利益はほぼ消えます。

コンジョイントのほうが正確、とは限らない

同じ研究には、実務の常識を揺さぶる結果も含まれています。

価格調査の世界では、直接「いくらなら買いますか」と聞く方法は精度が低く、選択肢から選ばせるコンジョイントのほうが実際の買い物に近いため正確だ、と長く言われてきました。教科書にもそう書かれていますし、当社もそう理解してきました。

ところがこのメタ分析では、逆の結果が出ています。選択から推定する方法のほうが、直接たずねる方法よりも、実際の支払額を10ポイントほど大きく上回っていました。

聞いて得た金額は、実際に払う金額をどれだけ上回るか 選択から推定する方法 直接たずねる方法 0 10 20 30 40 50 +9% +19% 日用品など (比較検討が少ない商材) +28% +40% こだわり品 (探して買う商材) (%) 出典:Schmidt & Bijmolt (2020), Journal of the Academy of Marketing Science 48(3) 499-518/メタ分析の推定モデルによる試算値
図1:選択から推定する方法のほうが、ずれが大きく出ている

比較検討をあまりしない日用品では、直接たずねる方法が9%、選択から推定する方法が19%。探して買うようなこだわり品になると、それぞれ28%と40%まで広がります。高額な商品ほど、また専門性が高く比較が難しい商品ほど、ずれが大きくなるという傾向も確認されています。

なぜこうなるのか。研究者らは、選択を何度も繰り返すうちに、最初の判断を基準にして以降の答えが整っていくためだと説明しています。回答は一貫して見えるようになるものの、その一貫性は本人の本当の評価を映したものとは限らない、という指摘です。

この結果をもって、コンジョイントを使うべきでないという話にはなりません。仕様の組み合わせを比べたり、競合を含めたシェアを試算したりする用途では、ほかに代わる方法がないためです。ただ、そこから出てくる価格の絶対値については、直接たずねた場合より強めに割り引いて見る必要があります。

コンジョイントの中でも、価格を扱う場合には形式の違いが効いてきます。1案ずつ見せて点数を付けてもらう評価型は、実装が軽く回答者の負担も少ないのですが、「どれも買わない」という選択肢を置けないため、いくらまでなら払うかの基準点が出てきません。得られるのは案どうしの相対的な魅力の順位で、価格の水準や購入率の試算には別の手当てが必要になります。点数の付け方に個人差が出る点も、価格の効用を歪める要因になります。

仕様の優劣を比べるだけであれば、評価型で十分です。価格をいくらに置くかを知りたい場合は、買わないという選択肢を含む形式を選ぶ必要があります。

ずれを小さくする手立て

仮想バイアスをゼロにはできませんが、小さくする方法はいくつか分かっています。

環境経済学の分野で行われた別のメタ分析(Murphy ほか、2005年)では、28本の研究から得た83件の比較を整理し、聞いた金額と実際の金額の比率の中央値は1.35倍だったと報告されています。「2倍から3倍に膨らむ」と言われてきた通説より小さい値です。この研究が有効だと結論づけたのは、金額を自由に答えさせるのではなく、提示した条件に対して選ぶ形式にすることでした。

実務に落とすと、次のような工夫になります。

選択型は設計と実装の手間がかかるため、避けられることがあります。その場合は、回答者ごとに画面を作り分けるのをやめ、組み合わせを固定したセットを3〜4パターン用意して、回答者をどれかに振り分ける形にすれば、通常のアンケートツールでも組めます。競合を含むシェアの試算までは必要なく、価格の水準だけを知りたいのであれば、回答者ごとに1つの価格だけを見せる方法や、段階的な価格提示で十分なことも多いはずです。

もうひとつ、海外の学術研究で使われている手法として、答えた金額が実際の購入につながる仕組みを組み込むやり方があります。回答者が金額を答えたあとに価格をくじで決め、その価格が答えた金額以下なら本当に買ってもらう、という設計です。実際に支払う可能性があるため、正直に答えることが本人にとって最も有利になります。日本の通常のネット調査に組み込むのは簡単ではありませんが、少人数の会場調査であれば検討の余地があります。

出てきた数字を、どう使うか

ここまでの内容は、調査で価格を決められないという話ではありません。調査で出てくるのは、実際の支払額より高めに出た数字だと分かっているのだから、そのつもりで使えばよい、ということです。

当社がクライアントにお伝えしている使い方は、次のようなものです。

このうち、発売後の実売データとの照合は後回しにされがちですが、自社の商材で調査の数字と実売がどれだけ離れるのかを一度でも把握しておけば、次からは自社の実績にもとづいて調整できます。海外のメタ分析の平均値を使うより、自社のずれを知っているほうが確実です。

おわりに

価格の調査は、正解を当てにいく作業ではなく、外してはいけない範囲を見極める作業だと考えています。上限がどこにあるのか、どこから購入率が急に落ちるのか、競合と並べたときにどう見えるのか。この輪郭を掴んでおけば、決めるのは最後は経営判断です。

そのうえで、調査から出てきた数字には必ず上ぶれが含まれているという前提を、依頼する側と実施する側の双方が共有しておくことが大切です。数字をそのまま信じることでも、疑って使わないことでもなく、ずれの方向と大きさを踏まえて扱うこと。その姿勢が、価格判断の精度を支えていると考えています。

出典